アメリカバスケ
NBAで働く日本人:佐藤晃一さん(ワシントン・ウィザーズトレーナー)後編
最終回はいよいよNBA選手の名前がポンポン出てくるウィザーズの話。選手にほど近い位置にいる佐藤さんから見たウィザーズについて、ウィザーズファンを代表して興味本位だけで伺ってみた。
ギルバート・アリーナスとジョン・ウォール
- ウィザーズについて伺います。昨シーズン途中に大幅に選手を入れ替えました。あの時はいったい何が起きていたのでしょうか?
- 佐藤氏:GMが何を考えているかは分かりませんが、もう限界でしたよね。昨シーズン開幕前は、ランディ・フォイやマイク・ミラーを連れてきて、「さぁ、行くぞ!」となっていました。いざフタを開けてみて、開幕戦のダラスに勝った時はこれはスゴイと思いましたが、一気に崩れてしまいました。
僕はケミストリーがうまく行かなかったかなと思います。個性の違いもありますし、リーダーシップの問題もあります。ギルバート(・アリーナス)がケガで出場できない時期もありました。戻って来てもうまく行かず、そしたら今度はギルバートの問題が1月に起きました...。その時点で、もうサラリーキャップに余裕を持たせて再生しようと思ったのではないでしょうか。
- そしてオフシーズン、ドラフト1位でジョン・ウォールを獲得しました。話題のジョン・ウォールはいかがですか?
- 佐藤氏:皆さんも同じでしょうが、僕はジョン・ウォールに期待しています。スローガンに「GAME CHANGER」とありますが、僕は彼には「TEAM CHANGER」になって欲しいです。もちろん、試合の中でバスケットを変えるから「GAME CHANGER」と言われてますが、それ以上にチームや組織のこれまでの文化や伝統を変える意味で「TEAM CHANGER」になって欲しいのです。今までの体質を一新して欲しいです。
彼はチームプレイヤーです。サマーリーグ中にこんなエピソードがありました。ジョンが最後の試合には出場せずにベンチで見ていました。タイムアウトを取り、選手たちがあーだこーだと言いながら戻って来て、コーチが話をするわけです。しかし、コーチの言葉を聞かずに選手が勝手に話し合っていた瞬間に、ジョンが「Listen!!(ちょっと黙ってコーチの話を聞けよ)」と言いました。2週間足らずしか一緒に行動していないチームの中で、彼よりも経験豊富な選手が多い中でも、一番年下のジョンがリーダーシップを取っていたのです。それを聞いた時に、これからシーズンを迎えるにあたり、ベテランがいる中でも同じようなことができ、コーチたちもそれを許すチーム環境ができれば、良くなると思います。
- ギルバートとはポジションもチームの顔としても被る部分がありますが、それはうまく行くでしょうか?
佐藤氏:いやぁー、それは起きてみないと分からないです。まだ直接二人は会ってません。楽しみでもあり、不安でもあります。
ギルバートの立場から言えば辛いと思います。ケガのこともありますし、その復帰もうまく行かず、そうこうしているうちにバカなことしちゃって。最終的に彼自身の責任ではありますが、ウチの選手なわけですから僕は見放すつもりもありませんし、もし今後移籍があったとしてもサポートしたいと思っています。
いずれにせよ彼はベテランとして、いかにチームプレイヤーとして若い選手たちを引っ張っていけるかだと思います。二度目とか三度目に来た良いチャンスだと思いますよ。
- ファンとして言わせてもらうと、昨シーズン自ら棒に振った部分はギルバート自身の責任であり、チームに迷惑をかけた分、それをコートで返して欲しいと願っています。
- 佐藤氏:このオフシーズンも背番号を0から6とか9に変えるとか言ってるらしいんですよ。彼は話題を作りたがります。バスケが上手で、それに情熱を打ち込んでその位置まで登り詰めたのだから、それで周りの人から話題になったのだから、素直に原点に戻ってバスケットだけに打ち込めば良いのになぁって思います。
ファンとして期待したい今シーズン
- 背番号0の通り、再び原点に戻って欲しいと本当に思います。いろいろと生え抜き選手がいなくなったのはファンとして悲しいですが、選手が入れ替わったことで活性化し、今シーズンはプレイオフに出られないとしても良い布石になるシーズンが待っているのではないかと期待しています。ファンなので毎年淡い期待はしていますが...(苦笑)。今シーズンはいかがでしょうか?
- 佐藤氏:個人的にはあまり期待を高くせずに、良いファンとしてサポートするのが良いと思います。あははは。
アスレティックトレーナーとしてチームを見ていてもそうですが、基準を上げないといけません。3年前、レギュラーシーズン5位でプレイオフ進出した時は、良いシーズンだったとは思いますが、あの時もせいぜい50勝もしてないでしょ(43勝39敗)。ワシントンでは、あぁ良いシーズンだったと言えますが、レイカーズとか強いチームは60勝しているわけじゃないですか。やっぱり良いフランチャイズになるには50試合以上勝って当たり前にならないと......。
偉そうなこと言ってますけど。笑
ファンというか、客観的に見るとそうならないといけないと思います。
- チームとして意識の低さが、万年プレイオフに行けず、行っても1回戦止まりという状況を作り出してるのでしょうか?
- 佐藤氏:そうだと思いますよ。プレイオフに行ったら目標達成みたいになってしまっていますよね。エリックはシカゴでもトレーナーをしていましたので、もうNBAで10年以上働いていますが、彼が言うには「毎年カンファレンスファイナルに行くことをゴールにしないといけない。カンファレンスファイナルより先は何が起きてもおかしくない」。そこまではやはり実力で上がって行くけど、その先は本当に何が起こるか分かりません。
今年のボストンだってそうじゃないですか。僕らはボストンとの最終戦で勝ちましたが(WAS106-96BOS)、あの時はケビン・ガーネットはヨロヨロだし、ポール・ピアースもダメだし、ラジョン・ロンドも何だかよくわからない状況だったのに、気が付いたらファイナルに行ってましたからね。だからこそ、カンファレンスファイナルまで行く意識を持って挑まないといけないということで、それはなるほどなと思います。
って、こんな風にNBAの話をしていますが、バスケットをずっと見ていたわけではありませんし、まだ2年目なので全然知りませんからね!笑
常に自分を良くしていこうという努力を怠らないこと
- 最後にNBAで働きたいと思っている方々に何かアドバイスがありましたらぜひ!
- 佐藤氏:常に自分を良くしていこうという努力を怠らないことが重要だと思います。
僕は学生の頃にプロのアスレティックトレーナーになりたい、NBAじゃなきゃいやだって思ったことは......もちろん少しはありましたが、でも出来たら良いなぁぐらいにしか考えてませんでした。今、39歳ですが、37歳の時にNBAに来ることができました。
よく学生さんにも聞かれるのですが、一生懸命いろんなことをやっていれば、良い方向に向かって行くと言ってます。もちろん、意識して積極的にNBAに携わる人とコネクションを作って、その地位を勝ち得た人もいます。
僕の場合は、その場所で与えられたことをキチンとして、良い人と出会い、限られた24時間を有効に過ごせる人を判断し、正しい人たちとコミュニケーションを取るようにしています。いやらしい意味ではなくて。今回、エリックに出会ったことも、とても働きやすく、僕がやりたいことに対して理解をしてくれる人に雇われたということは、まさにその通りなわけです。
正直言って、理解を示さない人だったとしても、NBAならば働いていたかもしれませんが...。笑
でも、一から理解されている職場で働けているのは非常に幸せだと思っています。日々自分を良くすることは、何の仕事でもそうだと思います。
...と言いながら、自分はできているかな?笑
昨年もトライ・ワークス社主催のワークショップで佐藤さんが講義されていた。メチャメチャお会いしたかったのだが、出張と重なり実現できず。あれから一年。待ち焦がれていた佐藤さんとようやくご対面。名刺交換をさせていただいたら、もちろんウィザーズの名刺。感無量なひとときだった。
微力ながらバスケに携わってから、まさかウィザーズスタッフと直接会えるなんて夢にも思っていなかった。最後に佐藤さんが仰ったとおり、一生懸命やっていれば何かのタイミングでつながることは絶対にある。一生懸命という部分ではまだまだ足りていない部分は多々あるが、私にとってもひとつ夢が叶ったインタビューだった。
かわいい息子たち(ウィザーズの選手たち)をどうぞよろしくお願いします。近々、優勝しましょう!
その夢を叶えるためにも、一生懸命いろんなことをしよう。