アメリカバスケ
NBAで働く日本人:佐藤晃一さん(ワシントン・ウィザーズトレーナー)中編
アスレティックトレーナーとは、選手のパフォーマンスを上げる存在だと勝手に思っている。実際はどうなのだろうか?そんな佐藤さんの仕事に迫る。
やはり最終的には遺伝。しかし......
- NBA選手の凄さを簡単に身体能力の差で片付けてしまって良いのでしょうか?それとやはりトレーナーのマジックが働いているのでしょうか?
- 佐藤氏:いや、僕らのやれることなんて、こんなもんですよ(人差し指と親指で小ささをアピール)。先日、野球のスポーツトレーニングに関するカンファレンスに出席したのですが、やはり最終的には遺伝ではないか...と。科学的な観点から言ってもそのようです。野球のピッチャーがどれだけ速い球を投げても壊れないというのは、それなりに体がキチンと動いているし、肩の関節は投げやすく出来てるのではないか、ということらしいです。
- 体の使い方がうまくできない選手もいるわけで、それを正しい方向へ持って行くのもトレーナーの仕事ではないでしょうか?
佐藤氏:それはあると思いますし、僕の理想はまさにそうです。
アリゾナ州立大出身で2005年のドラフト1位でゴールデンステイトに指名されたアイク・ディアグという選手がいました。彼は今、不幸にも手術してFAだと思いますが、才能や素質だけでNBAに行って成功できる選手もいます。
でも、選手によっては途中で何かブースト(後押し)が必要な時もあります。それがコーチであったり、ストレングストレーナーだったり、アスレティックトレーナーだったり、いろいろあると思います。うまいタイミングで手を差し伸べることができれば、それにより選手がハードルを越えることができたと言えると思います。
リハビリテーションコーディネーターだけど雑用も多い
- NBAではコーチもトレーナーも細分化されていますが、どのような種類があり、佐藤さんはどのような役割をされているのでしょうか?
- 佐藤氏:ウィザーズにはトレーナーが3人いて、僕を雇ってくれたエリックはヘッドアスレティックトレーナー、僕がリハビリテーションコーディネーター、もう一人アシスタントトレーナーがいます。僕はヘッドトレーナーをリハビリの面で補佐しながら、現在ウィザーズはケガ予防のトレーニングプログラムを刷新しようとしていますので、僕がそのプランを考えています。トレーナー3人で選手15人を相手にしており、やはり三者三様のやり方もありますが、同じような考え方で接しないと選手がトレーナーを選ぶようになってしまいます。誰がやっても同じようなサービスを提供できるように、そのプランに基づいて仕事をしています。ヘッドトレーナーはGMやHCとも話をしながら選手の管理をしています。
例えば先日、ダラスから移籍してきたジョシュ・ハワードと契約しましたが、彼はオフシーズンを出身地のウィンストン・セーラムで過ごしてます。ニューヨークで手術したばかりですので、そこに行ってお医者さんと相談したり、セーラムで見てもらっているセラピストからケガの状況やどのようなことをしてるかなどを聞くのも僕らの仕事です。
あとは雑務としては、遠征時のホテルの部屋割りとかバスの手配や飛行機の時間が変更になった時の対処などもアスレティックトレーナーが行っています。
- 雑務があるのは驚きました。日本でのトレーナーの役割はどちらかと言うとマネージャーに近い部分を感じており同様に雑務をしている姿を良く見ますが、NBAでもそうなんですね。
- 佐藤氏:人にもよりますが、ヘッドトレーナーになると、雑務で忙しくならないようにうまくやっているトレーナーもいます。トレーナーとしての大切な部分は抑えておかないといけません。
僕が雇われる前までウィザーズのトレーナーは二人でした。選手にもケアしないといけないですし、突然問題が起きた時に選手の治療をしないといけないのに、雑務で十分な処置ができなくなるのは本末転倒です。そういうこともあり、今は3人体制となり、それぞれが補って選手たちのケアを行っています。
ではなぜNBAでもそのような雑務をしているのかと言うと、ヘンな伝統みたいなものがあるみたいです。試合中にベンチの端に座ってファウルやタイムアウトの数などをカウントしているのもトレーナーです。本来ならばやる必要が無い仕事ではありますが、昔からの不思議な伝統があり、トレーナーの仕事になってるようです。
例えば、試合中にケガをして選手をロッカールームに連れて行くような場合があれば、エリックの代わりに僕かアシスタントトレーナーのどちらかが引き継いでカウントします。コーチは山ほどいるので、最初からコーチがやれば良い話ではありますが...。ようするに伝統なのです。笑
アスレティックトレーナーという職業
- アメリカで活躍されている日本人トレーナーも多くいる印象を受けており、なかなか日本での認知度や重要性が理解されにくく、働き口が少ないと思いますが、そのような現状についてはどうお考えですか?
- 佐藤氏:僕は実際日本で働いたことがありませんので、具体的なコメントはできませんが...。
両親からも「いつ日本に帰ってくるの?」と聞かれますが、今のところ魅力を感じる仕事の話が日本ではありませんので、帰ってくる予定はありません。
NBAは華があり、トップレベルということはありますが、実際にその仕事が相応かというという考え方もあります。厳しい言い方をすれば、自分が売れるようにキチンと実力をつけているかどうかだと思います。
アスレティックトレーナーという環境を考えれば、すでにマーケットが確立されているアメリカにいる方が楽です。しかし、日本で成功している方たちは、アメリカのトラディショナルを持ち込むだけではなく、少し頭をひねって日本にフィットするやり方をして、ビジネスで成功しています。トライ・ワークスさんもそうですし、大学や専門学校に行かなくても一線で活躍されており、クリエイティビティがあります。
僕が良く言うのは、アスレティックトレーナーという仕事は人の面倒を見たり、雑務をしたり、いろんな面倒なことがありますが、それを全うできれば他の仕事でもうまく行くと思います。肩肘張らず、一生懸命勉強すればそれで良いと思います。一生懸命やっていれば、アスレティックトレーナーという仕事柄、得られる経験は他の仕事にも役立ちますし、応用力があるはずです。
アトランタ・ホークスのウォーリー・ブレイズというトレーナーと話をしていた時、「NBAのアスレティックトレーナーをしていれば、アーティストのツアーマネージャーなんて簡単にできるんじゃないか」と笑っていました。バスが何時に来て、誰が何時にどこに行って、この人にはどのようなアシストが必要かというプロデューサー的な役割をアスレティックトレーナーも同じようなことを日々やっていますからね。
次回(8/16配信予定)は、ついにファンとして知りたかったウィザーズの昨シーズンの選手入替劇とジョン・ウォールを獲得した今シーズンについて伺った。ワシントンファンは必見!