「わたしにもそういう意地があるんじゃないかな...」
Wリーグプレイオフ・セミファイナル第1戦を終えた夜、トヨタ自動車アンテロープス(以下、トヨタ)の池田麻美はあるブログを読みながら、そんなことを感じていたのだという。
レギュラーシーズンを2位で通過したトヨタは同じく3位で通過したデンソーアイリス(以下、デンソー)と対戦し、その初戦を【41-66】で落としていた。チームの得点源であるフォワード陣が不調を極め、キーマンと目されていた6番手の川原麻耶も直前の練習で捻挫をしてチームに帯同していない。池田自身も、丁海鎰ヘッドコーチから「チームの中心」と言われながら、何もできずに終わっていた。
2戦先勝方式のセミファイナル。「今シーズンはファイナルでJX(サンフラワーズ)と対戦することだけを考えてやってきた(池田)」トヨタが、その目標を前に2010-2011シーズンの幕を閉じてしまうのか。2戦目を取らなければそれは事実になってしまう。
群馬・前橋から都内に移動し、代々木第二体育館でおこなわれた第2戦。普段は得点源であるフォワード陣を活かし、そこからずれが生まれたときに動きを合わせて得点を取るシーンの多い池田が、その日は序盤から鬼気迫る様相でデンソーゴールへと自ら突き進んでいく。デンソーの小嶋裕二三ヘッドコーチも「思ったよりも池田が攻めてきた」とのちに語るほど、池田はゴールへと向かっていった。
その結果、池田は両チーム最多の24得点を奪い、チームもギリギリではあるが【62-61】で勝利を上げている。そして1日開けた第3戦ではフォワード陣が復調を見せ、川原も合流するなどして本来の姿を取り戻したトヨタが【71-66】でデンソーを振り切り、2年連続2回目のファイナル進出を決めた。
勝負のかかった3戦目だけを見れば、やはり矢野良子、櫻田佳恵といったフォワード陣の得点力こそが「トヨタらしさ」を形成していると実感できる。しかし、このセミファイナルを通して見たときには2戦目がすべてだったと言える。スポーツに「たられば」はないが、あの2戦目で池田が自らのギアをトップに引き上げなければ、トヨタのファイナル進出はなかったわけだから。
「1戦目が終わったときに、富士通(レッドウェーブ。以下、富士通。同じくセミファイナルに進出し、JXサンフラワーズと対戦)の船引まゆみさんのブログを見たんですね。そこでまゆみさんが『JXがピンチのとき、大神(雄子)が踏ん張った...JXを支えて、引っ張ってきた意地がある。私も今日は試合に出られなかったけど、試合に出たら富士通を10年引っ張ってきた意地を見せてやる』と書かれていたんです。それを読んで、私にもそういう意地があるんじゃないかなっていう感じがしたんですよね...11年間トヨタでやってきた意地が」
意地を貫きとおすことはときとして、傾いた流れを大きく変えるのである。
新原茜はJXサンフラワーズ(以下、JX)の"3番手"のポイントガードである。目の前には大神雄子、吉田亜沙美といった日本代表クラスのポイントガードがいる。おのずと出番は限られてくる。2010-2011シーズンのレギュラーシーズンを先シーズンのそれと比較すると新原の出場時間は倍以上伸びているが、それとて田中利佳、内海亮子といったシューターたちのケガによる戦線離脱が大きな背景としてある。
それが2年目、3年目のいわゆる若手であれば、これから先輩たちを追い抜いてというモチベーションにもなるだろうが、新原は吉田や内海らよりも年上の8年目戦士。8年目といえば山田久美子、大神、田中に次いで上から3番目に位置する中堅より少し上、ベテランの域に一歩足を踏み入れている年代である。そんな選手が試合に出してもらえない、練習でもAチーム(スタメンチーム)に入ることはほぼない状況が続けば、モチベーションが下がってもおかしくはない。それでも新原はいつ来るともわからない出番をベンチでずっと待ち続けていたのである。
その新原が先シーズンでは1秒たりとも出番のなかったプレイオフ・セミファイナルで最高の役割を果たすことになる。代々木第二体育館でおこなわれた第2戦のこと。その前の試合、つまり前橋でおこなわれた第1戦で吉田を足首の負傷で欠くことになったJXは、第2戦で大神をもファウルトラブルでベンチに下げざるを得ない状況に陥ってしまう。そこでゲームコントロールを任されたのが新原というわけだ。
ポイントガードはゲームの流れを組み立てるいわば司令塔。その司令塔が3番手となれば、当然富士通は嵩にかかって攻めてくる。実際そこからの2分間で富士通はリードを9点まで広げることに成功している。
だが新原は冷静だった。渡嘉敷や間宮といったチームの強みである高さを最大限に利用して、点差を広げさせないどころか、徐々に詰めていく。自身もゴール下に飛び込んで得点を奪うなど約12分間プレイし、第4クウォーターの残り5分20秒で大神と交替したときには【65-60】、5点リードの状況を作り上げているのだ。そのリードを保ったまま、JXはプレイオフ・セミファイナルを制することとなる。
「シーズン中はBチームとしてほとんど次に対戦するチームの役ばかりをやっていて、私たちがJXのバスケットを練習するのはオフ明けだけです。でも自分たちがJXのバスケットを練習できない分、Aチームがヘッドコーチに言われたことは自分に言われていることだと思って練習をしています。そういうところが出せたのかな...」
試合後、新原はそう振りかえる。そこには"3番手"ではあるが、王者JXを陰から支え続けたという自負、矜持が感じられる。意地と言ってもいい。たとえベンチメンバーであったとしても、自分も王者JXの一員なのだという意地が、これまでほとんど出ることのなかった競った状況下においても冷静にJXのバスケットを展開させることができたのだ。
池田も新原もけっして目立つ存在ではない。スポットライトは常に自分の隣を照らしている。それでも照らされない選手がいるからこそ、スポットライトを浴びる選手はさらにその輝きを増すことができる。
プレイオフ・セミファイナルを振り返ったとき、トヨタに敗れたデンソーは自分たちの「走るバスケット」を最後の1秒まで貫き通した。これはデンソーの意地である。JXに敗れた富士通の岡里明美ヘッドコーチは、セミファイナルの記者会見で「(JXのインサイド陣は)抑えられない」と諦めにも似た笑顔でそう言っていた。しかし蓋を開けてみると、最終的にはインサイド陣にやられるわけだが、ゾーンディフェンスを使って、JXのインサイド陣を苦しめた。これも意地である。それらの意地が見るものを引きつけるセミファイナルにしたといっても過言ではない。
10日から池田率いるトヨタと、新原が支えるJXのプレイオフ・ファイナルが始まる。ファイナルでは誰の、どんな意地が見られるのか。日本女性の"意地の張り合い"がゲームの内容をより濃いものにする。(了)
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